相場とは常に需給バランスで決まる。供給量が多く、生産者の売り意欲が高まれば相場は安くなるが、供給量が少なくなれば販売者の買い付け意欲が高まり、相場は上昇する。しかし、相場の動きを自然の流れに任せているとマーケットは破綻してしまう。生産者・需要者のいずれにも「コスト」が存在するものの、マーケットはそうした「コスト」には見向きもしない。相場暴落時にはとことんまで下がるし、暴騰時にも青天井で一気に突き抜けていく。相場の乱高下が続くことで生産者・販売者のいずれも徐々に力を奪われ、追い込まれて
しまう。
天然魚の生産者であれば「獲らない」という選択肢で安値相場を戻していくことは可能だし、天然魚の販売者は「売らない」という選択肢で需要を抑え、高値相場を戻していくことは可能だ。しかしながら養殖魚はそんなに簡単ではない。養殖魚だけでなく、農作物や畜産物も同じだが、養殖場には既に生きた魚が数多く残されたままとなっており、その養殖でコストが発生している。出荷を抑えても養殖場の魚は育つ。売れないサイズにまで大きくなってしまったら逆に売れなくなり、結果的に相場は暴落する。養殖業者が出荷調整で相場をコントロールすることは現実的に不可能と言えよう。
今シーズンのシラスウナギ漁が東アジアで大豊漁だったことを受け、日本は別としても中国に大量のシラスウナギが池入れされたが、日本、そして中国の生産者を含めた業界関係者は
需要量を増やすことに注力、この大きな波を乗り越えようと必死だ。
何れにしても供給量が増えれば相場が下がるのは自明の理でもある。ただ、ウナギの相場はそういう意味で、需要を伸ばす努力が奏功していることからも、厳しい需給環境においても相場はコスト割れの水準にまで下落する可能性は低い。その際たる貢献者は加工場の存在とも言える。来年夏に向けて外食チェーンやスーパー・百貨店の鮮魚・惣菜売り場にネット通販、そしてコンビニエンスストアで販売するウナギ弁当用のウナギ蒲焼の生産がスタートしているが、こうした加工場の存在はある程度の供給の多さも十分吸収できる体制にある。
業界では早くに供給過剰となる状態を想定していたこともあり、加工場が動きやすい価格帯・時期をしっかりと見極め、ある程度の安値も覚悟しつつ早めに需要者に合わせて相場を調整した。他の養殖魚では需要者の動向を見極められずに、価格・出荷時期などの調整ができないままに相場暴落を招いてしまう場面が多い。「言うは易し」だが、他の養殖業者もこの難問をしっかりと解決しなければ養殖魚の生産安定は実現しないだろう。
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