今シーズンのシラスウナギ漁は早々に終了を迎えた感があるが、これまでシラスウナギの採捕実績の取材を進め、強く感じていたことがある。シラスウナギ漁は長期的データである産卵場海域の環境データと中期的データである過去5〜6ヶ月の海流データ、短期的データである過去1〜2ヶ月の降水量データの3種類のデータが揃って初めて予測が可能となる。
シラスウナギが東アジア各国の沿岸に接続する上で、前出の3要素のどれか一つが悪化しても通常の水準の採捕とはならないようで、シーズンにあたりそうしたデータ収集をこまめに
行う必要がある。ウナギ業界では業界の根幹を揺さぶることになるシラスウナギ漁であるにも関わらず、そうしたデータの整備が進んでいない。データを整備しないままにシーズンインし、流れに身を任せてしまう。採れる時に採れない時のような買い方をして相場を暴騰させることは日常茶飯事だ。
前出の海流と気候データはシラスウナギだけでなく、日本の漁業資源の保全でも大きな役割を果たすと考えられる。日本沿岸では太平洋岸を流れる黒潮や親潮、日本海側を流れる対馬海流やリマン海流が存在するが、その海流は北太平洋の海流を構成する様々な海流、そして気候変動の影響を受けて形成される。北太平洋の海流・気候データは様々な回遊魚等の資源データ整備でも大きな役割を果たすため、日本政府はもっと海洋データの収集を広範囲に行うべきだが、現実的にはそうしたデータ整備は進んでいない。
今年のシラスウナギ漁ように黒潮の台湾沖での変化、そしてフィリピン東部沖の複雑怪奇な渦潮の発生・消滅のメカニズムなどにも影響を受けることも今後起こり得るだろう。日本の近海の海流だけを追っていては正しい状態の把握はできない。日本の海域外での海流や気候の短期的な変動を常にチェックするシステムの構築は長期的な取り組みとして非常に重要な意味を持つと言える。
ただ、これには膨大な数の人工衛星をはじめとした観測システムの構築が必要となる。他国政府の協力なしには実現しないことではあるが、いつまでもこの部分に踏み込めないでいると日本の水産業の環境データを十分管理できないままだ。少なくとも北太平洋のデータ整備は何としてでも進めていく必要があるだろう。
日本の領海は排他的経済水域、そして延長大陸棚を含めると面積で465 万平方キロメートル、体積では1580 万立方キロメートルで面積は世界第6位、体積では世界第4位と世界屈指の規模を誇る。その領海・領域を守るため、データを積み上げていくとともに体制構築を進めていってほしい。
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