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  • 執筆者の写真小野 晶史

2020年12月号社説:シラスウナギの産卵場からの回遊経路は複雑怪奇?/北赤道海流と渦潮の相関関係の強さ明らかになるか─ シラスウナギ回遊データについて思うこと ─

シラスウナギ漁が始まった。台湾では既に採捕がスタート、早々に採捕量がまとまり好感触を覗かせたが、中盤以降、期待したほど纏まっておらず、昨年に続く大豊漁の期待も空振りとなっている。


本紙ではこの5年にわたり、シラスウナギの資源量に関する様々なデータ作成を進めると同時にシラスウナギ漁の予報が可能かどうかの検証も進めてきている。そのデータ収集を進めるに従って、これまでの業界での常識とされてきたシラスウナギの回遊システムがいかに脆弱なものであるのかをまざまざと思い知らされている。


太平洋西部アリアを広域を回遊するシラスウナギ だが、その回遊経路は大雑把にしか判明していない。産卵場から北赤道海流に乗って黒潮に接続、東アジアの日本・台湾・中国・韓国に回遊するとされるが、その内容は非常に複雑だ。


キーワードは「渦潮」だ。海面には多くの渦潮が存在するが、北赤道海流、そして黒潮周辺では渦潮の影響で海流も様々な変化を見せる。特に北赤道海流は非常に不安定な海流でフィリピン東部沖合に頻繁に発生する複数の渦潮が邪魔をしてシラスウナギの回遊を妨げる場面が存在する。


今年は10月半ばまでそうした渦潮の発生が見られず、産卵場からの北赤道海流の流れは安定して黒潮に接続していたが、10月下旬に多くの渦潮が発生、北赤道海流は分断されてしまい、黒潮への接続が難しくなっている。


しかもこの渦潮は頻繁に拡大・縮小の変化を繰り返すようだ。11月半ばには弱まり、シラスウナギ漁に対する期待感も高まったが、11月下旬にはすぐに復活、北赤道海流が消滅してしまい、またもや黒潮への接続が見られなくなってしまっている。


この渦潮発生のメカニズムを解き明かすのは生半可なことではないが、この渦潮の動向を細かくチェックしていくことでシラスウナギ漁の動向を予想することは可能なようだ。何れにしても初めてのことでもあるので、しっかりとデータを積み上げていきたい。


さらに、このデータ収集の過程で様々な前提が崩れていくことも感じる。産卵場からの回遊は基本的に採捕されるまで6ヶ月以上とされているが、その大半が北赤道海流域での時間であると想定される。産卵時期は6ヶ月前であるにしてもフィリピンの東方沖から台湾にかけての移動にかかる時間は数日に過ぎず、短期間であると推測される。


これまでの定説でも様々な仮説が覆されようとしており、シラスウナギの回遊経路がどれだけ複雑怪奇なものであるかを窺わせる。今後もしっかりとデータを蓄積していきたい。

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