小野 晶史
2020年3月号社説:ウナギ資源研究の早急な方向性の見直し求められる/カギはシラスウナギの県別・日別の採捕量データか─ ウナギの資源量データについて思うこと ─
誰もが実感し始めたと思うが、ジャポニカ種、ロストラータ種、アングィラ種等のウナギ属魚類が絶滅危惧種であるということは現実的ではない可能性が高い。野生生物であるために絶滅の危険性はゼロとはならないが、「食べるな」と言わなければならないほどの火急の保護策が必要な状態であるとは言えない。
これは今シーズンのジャポニカ種のシラス漁が豊漁となったことで噴出した話ではない。2012年冬からスタートしたシラスウナギ漁が大不漁となり、4年連続の不漁となったことからジャポニカ種の資源枯渇の可能性が取り沙汰されて以降、本紙含め様々な研究者が検証を続けた結果でもある。
内水面水域での天然ウナギの漁獲量ばかりに気を取られ、汽水域に大量に存在する海ウナギ資源の存在がすっかり抜け落ちていたことは研究者だけでなく業界としても痛恨の見落としと言わなければならない。これはジャポニカ種だけではなく、ロストラータ種にも言えることだろう。ロストラータ種でも汽水域に多くの資源が存在する可能性が高まっている。内水面の漁獲データばかりにこだわり、汽水域データ収集を怠ってきたことから完全に資源の実態を見誤ってしまったとも言える。
これに伴って、「シラスウナギを運ぶのは黒潮のみ」「遡上できなかったシラスウナギは死滅する」ということも誤っている可能性が高いと想定される。言うなれば、業界に関わる皆がまだウナギの資源・生態について不十分な知識のまま、うなぎという複雑な生態を持つ魚の資源について一方的に結論づけていたということではなかったのだろうか。
これからのウナギの研究では多くの資源をウナギの資源・生態の調査に投下していくべき。政府によるシラスウナギの池入れ量の把握はこの数年で精度が上がってきており、安心できるところまで来ているが、問題はシラスウナギの採捕量データと言える。現在も取り組みを進めているようだが、資源量データの基盤とも言える採捕量をできるだけまとめていかないとウナギ資源保全の根幹のデータが常に揺らぐ状態となってしまう。
現在の集計では年別・国別の採捕量はまとめられるのだろうが、問題は県別、日別のデータ作りにある。この3年のシラスウナギ漁では大量のシラスウナギが遡上しないか、もしくは採捕されずに生息している可能性が高い。漁獲されず、資源に再加入したシラスウナギ資源の実態を加味すると「急がないと絶滅する」結論に導かれることはなさそうだ。いずれにしてもウナギ資源研究の早急な方向転換が求められよう。