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  • 執筆者の写真小野 晶史

2021年9月号社説:まだよく知られていない「水産物流通適正化法」とは/国内外の全種の活鰻・加工品に波及する深刻な問題/国際間の調整も含めて早めに準備を進めるべき

昨今、日本政府による調整が進められてきている水産物流通適正化法の特定水産動植物の対象魚種の選定だが、国産魚を対象とする「第1種」と輸入魚を対象とする「第2種」のいずれにもニホンウナギのシラスウナギが対象となり、「第1種」は年内の指定が決定、「第2種」も来年度中の指定がほぼ決定的となった。


これはウナギだけの問題ではない。IUU漁業排除を目指す国際的なムーヴメントのもとでシラスウナギに白羽の矢がたったと言える (詳細はマンスリーレポートで掲載済み)。今回の「特定第一種水産動植物指定」の決定の過程ではニホンウナギのシラスウナギばかりが取り沙汰されているが、今後の水産庁の提案では「全種」のウナギを対象とするべく、提案がなされる予定で、ロストラータ種等も含め輸入ウナギ全般に対しても厳しい規制が課されることになる。


何よりこの「水産物流通適正化制度」の検討内容を見るとヨーロッパウナギと同様のケースが起こりうる可能性が高く、気になる。


この規制では国内・海外で採捕されたシラスウナギに原産地証明書をつけることを義務化することになるが、ヨーロッパの事例を見るとこれはシラスウナギだけに止まらず、活鰻やウナギ蒲焼の流通にも適用される可能性は否定できない。


今回の指定を受けても、業界関係者は「なんとかなる」と楽観的な姿勢を感じさせる。が、対象がシラスウナギだけでなく、料理店に納品される活鰻、そして、スーパーで販売される冷凍ウナギ蒲焼を対象とする方向性が明らかになれば、笑ってはいられない。


一旦決定した事項を覆すことが並大抵のことではないことは「絶滅危惧種論」のケースを見ても明らかだ。安閑とせず、中国・台湾との国際間調整も含め準備を進めるべきだろう。ヨーロッパウナギは朝鮮・中国関係のブローカーによって荒らされたフランスの河川でのシラスウナギ漁を守るべくEU 傘下の国々でシラスウナギに対する厳しい輸出禁止措置が発効された。しかし、当初適用外だった活鰻・加工品も「同罪」と言わんばかりに輸出規制が適用された。


その後に続いた活鰻相場の暴騰、高値推移についてはいうまでもないだろう。ヨーロッパウナギがマーケットから排除されてしまったことでアジアのウナギのマーケットは相場高騰を引き起こし、それに伴いシラスウナギの池入れ相場は未だかつてないキロ400万円という最高値水準へと上昇して行った。


今、起きていることを「抜け道はある」と高を括ることなく、いずれは自分の身に降りかかってくることだとよく理解して真摯に対応するべきだろう。

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