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  • 執筆者の写真小野 晶史

2022年1月号社説:「常識」を盲信せずに常に疑う姿勢の必要性を痛感/「常識」に囚われない研究・取材姿勢が求められる─2022年の年頭にあたり─

「常識」とは必ずしも「真実」ではなく、時代によって変わっていくような脆いものであり、時には歴史に翻弄されていくものではないかと思う。一つの「常識」には先人たちによる多くの歴史的事実や知見が積み重ねられていることは言うまでもないが、誰もが疑う余

地のないものとして一般に定着することで逆に検証する姿勢が弱まっていく。なぜその「常識」が出来上がったのか、その成立の過程などをしっかりと検証していくと、必ずしも普遍のものではなく、思いのほかいい加減で「真実」からかけ離れたものであったりもする。


なぜ、新年早々にこうした話をするのか、近年のウナギ資源問題を見て、特に強く感じることがあったからだ。ウナギの生態について、産卵場や海遊システムなど50年前には多くのことが解明されていなかったが、多くの研究者の功績から今では産卵場が特定され、その生態も明らかになってきている。人工種苗の生産技術開発が進んでおり、まさに日々成果を上げてきているが、一方で研究が進んでいるとは言えない分野もある。それは産卵場と東アジアを結ぶ回遊システムだ。今まで様々な仮説のもとに研究が進んでいるが、確実にわかっているのは産卵場が北緯10〜20度・東経140〜150度の間に存在するということ。しかしそれ以外のデータについては推論ばかりで実際には解明されていない。本紙でも7年前から資源問題も含めて独自に取材を進めてきているが、調べれば調べるほど、今「常識」とされていることは違っているように思われる。


科学は万能ではない。今の「常識」を常に疑いながら自ら検証していく必要があることは言うまでもない。そして疑問点を見つけたら徹底的に調べてみることが必要だ。私は科学者で

はないが、「なぜ」を突き詰めていけばいくほど今のウナギの資源問題はまだまだ検証が必要なのではないかと思わざるを得ない。ウナギの産卵場の位置は疑いようのない事実であると思われるが、そこからの東アジアまでの海遊システム、さらには産卵場海域の詳細な環境データなども揃っていない状況で、まだまだ調査を進めていく必要がある。かつてはエルニーニョ現象とシラスウナギ漁の実績との相関関係を示唆する「エルニーニョ仮説」なるものも登場したが、決定打とはなっていない。論文などの研究成果としてまとめていくことは研究機関の専門家に任せるとして、私としては何ができるのか、やはり現場の感覚を研ぎ澄まし、事実を突き詰めていくことにあるだろう。今年の課題としたい。

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